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仕事でとりかえしのつかないミスをしてしまったら…… ~介護現場での死亡事故~

2014/03/01
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みらい総合心理研究所 所長 岸井 たみえ

 

仕事をする上でミスはつきものです。

だれでも一度や二度、大きなミスの経験があるかと思います。

たいがいのミスは謝って、適切な善後策をとればなんとか解決するものです。しかし、人命にかかわるようなミスを冒してしまった場合はどうでしょうか。

高齢化社会を迎え、介護施設で働く人達の負担が増えています。そのような中でとりかえしのつかないミスが起きてしまいました。

 

正月のお雑煮で死亡事故

A子さん(38)は10年前から介護施設に勤務しています。今までは事務職でしたが、昨年からホームヘルパーを兼務するようになりました。夫は同じ職場のケアマネージャーです。

昨年末に施設利用者のBさん(76)からお正月の食事介護の予約が入りました。Bさんは妻に先立たれ、独り暮らし。3年前に軽度の心筋梗塞を発症しています。

あいにく予約の日は、いつもの担当者が正月休みです。

A子さんはかわりにBさん宅を訪問しました。

お雑煮を食べたいとBさんが言うので、A子さんはお雑煮をつくり、食べさせてあげました。

ところがお餅がのどにつかえてしまいます。やがてBさんは、呼吸不全に陥り倒れてしまいました。

A子さんは緊急の蘇生処置を施しますが、Bさんは息を吹き返しません。

あわてて救急車をよびました。サイレンの音を聞きつけた隣人の男性がかけつけました。

事情をきいたその男性は、パニック状態になっているA子さんを怒鳴りつけます。

「老人に餅を食べさせるなんて…。故意にやったとしか考えられない。プロ失格だ!」

救急隊員が駆け付けた時には、Bさんは心肺停止状態でした。その後、病院で死亡が確定。A子さんは、医師、警察署員から事情聴取を受け、その結果、事故と判定されました。

「私の不注意でした。私のせいでBさんが亡くなったんです」

と、泣きながら訴え続けたA子さんに、医師と警察署員は、

「事故だから、そんなに自分を責めないでください」

と声を掛けました。

 

A子さんを追い詰めた夫のひとこと

しかし、A子さんは、罪悪感が全身を覆い、震えがおさまりません。

帰宅し、夫に一部始終を話したところ

「自分だったらお年寄りに餅を食べさせることはしない。それでもおまえは専門職か!」

と、言われてしまいました。

その日は、自分の不甲斐なさに、一晩中眠れませんでした。

Bさんの葬式では、集まった親族の方々に謝罪をしました。

泣きじゃくるA子さんに親族は

「事故だと聞いていますから、私たちはあなたを責めたりしませんよ」

と優しく手を取ってくれました。

三日後、出勤し、社長、上司に今回の事を謝罪し、責任を取って辞めたいと申し出ましたが、

「この件で退職する必要はありません、あなたには仕事を続けて欲しい」

と言われました。

しかし、Bさんの隣人や夫からなじられ「それでも専門職か!」と言われたことが、頭から離れません。

「私は殺人者なんだ」

「Bさんの人生を奪ってしまった」

そう考えるたびにBさんの苦しい顔が浮かんできます。

A子さんを気遣う同僚からなぐさめられますが、様子を聞かれるたびに、フラッシュバックが起きてしまいます。

悪夢にうなされ、睡眠も不十分な状態でも仕事を続けようとするA子さんをみかねて、上司は休むよう伝えますが、

「私が休んでしまうと、Bさんに対しての責任を放棄しているように感じます。どうぞ務めさせてください」

と休職をかたくなに拒みます。

また、自分が未熟であったという反省から介護ヘルパー研修に自ら志願して参加しました。

しかし、嚥下実習の時に人形の顔がBさんに見えてしまい、うまくいきません。

 

前向きの気持ちと罪の意識に揺れ動く

カウンセリングでのA子さんは前向きです。隣人の男性や夫から言われたことに触発され、プロ意識を持ち続けることがBさんに対する弔いだと考えています。

しかし、一方では罪の意識に苛まれます。

「私は殺人者なのか」

「本当に事故という事で解決してしまってよいのか」

「会社は退職する必要はないと言ってくれるが、本音では失格者というレッテルを貼っているのではないか」

「ヘルパーの仕事を続けていく自信は、いつかなくなるのではないか」

「また、同じような状況を作ってしまうのではないか」

「利用者さんとの交流は出来るのか」

「理解の無い夫は、私がヘルパーの仕事を続けていくことを認めているのだろうか」

A子さんの気持ちは揺れ動いています。(つづく)