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地震とPTSD

2011/05/01
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みらい総合心理研究所 所長 岸井 たみえ

 

3月11日、国内観測史上最大の地震が発生しました。大地を揺るがす巨大地震は人々の心に恐怖と不安を与えました。テレビ局は被害の模様を報道しましたが、大津波が一瞬にして街を飲み込む映像、炎で赤く染まった夜空、瓦礫の山にうずくまる人々、原発の爆発映像は人々に恐怖と不安を与えたともいえます。

10年前の9・11同時多発テロも人々に恐怖を与えました。当時勤めていた心療内科では翌日から恐怖と不安を訴える相談者が増え、カウンセリング予約がとれない状況になったのです。遠く離れたアメリカでの事件ですが相談者たちは一応に死に対する恐怖を語りました。

 

<事例1>B子さん(50代主婦)

地震発生時、自宅でテレビを見ていました。マンションの12階に居住していたこともあり食器棚の上に置いてあったものが次々に落ちました。階段を下りると地上の電線が大きく揺れています。夫に電話をしてもつながらず、不安な気持ちで夫を待ちました。徒歩で5時間かけて帰ってきた夫と会えたのは深夜でした。再び地震・津波が襲ってくるのではないかと不安でいっぱいになりました。津波がきたら高台に逃げればいいと思うのですが、夫は働いている。自分ひとりだけ助かっても一人では生きていけない。夫は「その時がきたら携帯で安否確認をとる。津波がきたら安全なところに逃げればいい」と言い、休んでほしいと頼んでも、夫は出勤してしまいました。夫は私のことなど心配してくれないとB子さんは訴えます。家にいても不安で落ち着かず混乱しています。

 

<事例2>Aさん(30代 会社員)

地震時は取引先でプレゼンテーションをしていました。高層ビルの40階のため左右に大きく揺れ船酔いの感じがしました。プレゼンに使っていたプロジェクターは机から落ちて壊れてしまいました。

上司から安否確認の連絡が入り、そのまま徒歩で帰宅。家に着いたのは夜中の1時すぎ。翌日は、なんとか午後に出社。気になっていた前日のプレゼンの打ち合わせをしようと思いましたが社内はそれどころではなく延期になりました。

地震から2週間後、朝の通勤電車の中で突然めまいにおそわれ途中下車。吐き気もひどく、なんとか出社しましたが早退。翌日から休みをとります。

Aさんは「地震さえなければプレゼンはうまくいっていたのに」と力のない声で訴えます。この日のために努力してきたことが一瞬で消えてしまい気力を失っています。

 

恐怖と不安

恐怖や不安は身体的な病ではありませんが、強烈なできごとに遭遇すると、心に深刻な傷を残すことがあります。

恐怖は具体的な対象に対して抱く不合理な感情です。たとえば不潔恐怖、対人恐怖、赤面恐怖、尖鋭恐怖、高所恐怖、閉所恐怖、疾病恐怖などがあります。

恐怖の対象が自覚されるとそれから回避しようとします。

一方、不安は恐怖と違って特定できる対象はありません。現実感のないファンタジーな推測から生まれる感情とも言えます。日常生活に関わる様々な心理的社会的ストレスから生じます。欲求不満や葛藤に対してどう考えたらよいのか分からなくなり混乱すると、頭痛、発汗、動悸を伴い、何度も繰り返すと「死」に対して不安を感じパニック発作を起こしやすくなります。そのために会社や学校に行けなくなることもあります。

欧米人は具体的な対象物に対して恐怖心を抱くことが多いようです。一方、日本人の不安は対象物がみえません。藤原定家の「明月記」に「心中不安」という言葉がありますが、心の中にある不安は特定できず情緒的です。太宰治は不安を「漠然としたもの」と表現しました。この言葉は欧米人より日本人の方が理解できるのではないかと思います。

 

外傷後ストレス障害(PTSD)

PTSDは次のような体験から心が傷ついた状態といえます。

自分が死にそうな体験をする。

他人が死亡、怪我をする。

③他人が危険な状況になったことを目撃する。

④家族や親しい人が暴力的な形で怪我、死亡する。

⑤家族や親しい人が危険な状況になったことを目撃する。

自然災害で①~⑤の体験をすると強い恐怖、無力感を感じます。そして当時の場面を何度も思い返し、夢でうなされたりします。

余震が続くとその度に当時の悲惨な記憶がよみがえります。海、汚泥、車、ペット、写真など当時を想い出すものを避けるようになり活気がなくなります。以前関心があったことや参加していた活動も避け、やがて孤立していきます。

悪夢が繰り返されると不眠症となり過度に警戒し、怒りっぽくなり集中力も散漫となります。このような症状が3カ月続く場合は急性のPTSDと考えられます。

対処法は、行動や症状を客観的に判断できる人が早期発見することです。不安や恐怖心を取り除くよう対話を続けることが必要です。被災者の心にある傷を救えるのは不安や恐怖を理解できる人です。暖かい心が通いあえばPTSDからも救われます。私も含めてガンバレ日本人と祈る気持ちでいっぱいです。