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(続)ちぇんちぇい、愛ってなあに?

2010/09/01
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みらい総合心理研究所 所長 岸井 たみえ

 

A子さん40歳 専業主婦

夫       45歳 自営業 結婚7年

 

A子さんは夫の両親と2年間同居しましたが義母との折り合いが悪くなり、うつを発症、両親と別居しました(ここまでは前号に掲載)。

別居を始めて2年、別居先は夫の実家から歩いて5分のところです。

近すぎることに一抹の不安はあったそうですが夫は「両親の面倒をみる」という気持ちが強く、何かあったときにすぐ対応できると思い決めました。

 

留守番電話事件

しかし、その不安は的中しました。

「病院のつきそいを頼みたい」「役所に提出する書類があるので書き方を教えて」「掃除機のゴミパックがなくなったのでついでに買ってきて」「お墓参りに行くので車を出して欲しい」「煮物を作ったから取りに来て」など義母から毎日のように電話がありました。

たまりかねたA子さんは自宅の電話を留守番電話にし、居留守をきめこみます。ところが……「ピンポーン」。

義母が突然訪ねてきました。

「居留守をつかっていたのね。そんなに私を毛嫌いするならもう二度と電話はしないから!」

この一件以来、A子さんは不眠症となり、昼夜が逆転。再び家事が手につかず夫の食事はコンビニ弁当になりました。 

夫は欲求不満となり、A子さんに罵声をあびせます。ますますA子さんは追いつめられ、自分の精神世界に埋没していきます。

 

 

抱っこをいやがり手のかからない幼少期、学校では落ちこぼれ、いじめも

A子さんは口数の少ない父としつけに厳しい母との間に生まれ、幼少期は「抱っこをいやがる赤ちゃん」でした。親にとって手のかからない子どもだったそうです。

小学校低学年のころは隣の席の子と授業中おしゃべりをし、よく先生に叱られました。他人のことが気になりみんなの注目をあびたかったのです。

叱られても平気だったのでクラスの子が「おもしろい子だ」と言っていました。勉強には集中ができず、小学校高学年になると落ちこぼれてしまいました。

成績が悪いのに、おしゃべりで先生に叱られることが多くなり、いじめにもあい不登校になります。

中学校では推薦で学級委員になりましたが、嫌な役を私に押し付けるためだったと本人は考えています。

「その場を考えずにズケズケ物を言う」とクラスの子から指摘されたことがあります。自分は人に気をつかい、周りを明るくしようと思って行動したのに、周囲からそう思われていたことがショックでした。

高校時代は、部活で他の部員から「先生や男子の前でデレデレしてブリッコしている」と注意されました。

またいじめられると思い、いじめられないための3つの対応策を考えました。

1 みんなが嫌がることを率先してやる

2 みんなにお世辞を言う

3 すぐに謝る

しかし現実はうまくいきません。逆に人目が気になりどうしていいのか分からなくなりました。

こうして心療内科に通院しながらなんとか卒業することはできました。

卒業後、専門学校に入学しましたが、2カ月で退学。実習で現場見学をしたとき、隣の先輩と盛り上がってしまったのです。現場で注意を受け、それがきっかけで周囲から無視されるようになり、退学をしてしまいます。

社会人のスタートはアルバイトから始まりました。事務職として入社しましたが、社長から常識がないといわれ、ここは1カ月で退社。

2社目は先輩の女性から「プライベートなことは聞かないで。もっと立場をわきまえるように」と言われ、職場の女子社員から無視され2カ月で退職。3社目は仕事の手順が分からずミスが多くなり退社。4社目は店での接客ですが、お客様とおしゃべりが多くて上司から注意され退社……。

こうして結婚するまでに勤務先は何社も変わっています。

 

対人関係が築けない

A子さんには次のような特長があります。

1 母子関係が希薄(抱かれることを拒むような感覚を持っている)。育児は子どもと母親の二者関係を軸に展開していきます。子どもの人格発達のスタートで形作られる基本になります。

2 学校や思春期の仲間体験が乏しい。嫌われないように意識しすぎて、対人関係が不安定です。自分への評価が低く、他人に対してへつらうことが多く、かえって相手から馬鹿にされてしまう。

 

このような状況でA子さんは自分を卑下し、抑うつ状態になります。結果、仲間の形成ができず孤立していきます。

しかし元来の明るい性格で、なんとか次のステップへ行けるエネルギーはあります。時にこのエネルギーは躁状態になり、周りからうるさがられ、おせっかいになり拒否されることもあります。

社会でのスタートを切るにはA子さんは人格的発達に遅滞が見られます。

精神分析家P.Fonagy(英)は母親による乳児への働きかけで乳児は母親を認知し、その際、乳児自身に生じる感覚も認知し、自分と他人が並行して育っていくことを学習していくと言っています。

A子さんが対人関係のとり方が分からず戸惑い様々な場面でトラブルが起きてしまうことを考えるとP.Fonagyの説を裏付けているように思えます。

 

夫の苦悩

A子さんの夫は離婚すべきか迷っています。

結婚をし、子どもを育て、家族のために働くことを生きがいに生きていくことがこんなに遠い世界のことだとは思っていませんでした。すぐに手の届くことだと思って、安易に結婚してしまったのです。

しかし妻の状態を見ていると結婚生活7年間何一つ変わっていない。子どもも無理ならば老いた両親を看ることを優先していくべきなのではないか……。

妻に対して愛情があるのかときかれると情はあるのですが……、夫の苦悩は続きます。

 

妻には夫、子には母親が人格形成の鍵

A子さんの人格形成はA子さんだけの問題ではないように思います。母の養育態度も一つの要因ではありましたが、今の心を立て直すには夫の力がどうしても必要です。しかし夫がA子さんとの愛を育てていけるのか、ということも考えなくてはいけない問題です。

 

さて、「ちぇんちぇい愛ってナーニ?」と質問をした女の子はもうすでに人格発達のスタートをきって3年になります。彼女の母は離婚問題で悩んでいます。このような状況下でも彼女の人格は形成されていきます。

愛を一言では語れませんが、この女の子がどのような愛を手に入れるのかは母親の役割が大きく関わっていると言えるでしょう。