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挫折した新入社員と新しい上司

2010/06/01
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みらい総合心理研究所 所長 岸井たみえ

 

今春就職されたみなさん、おめでとうございます。新人研修を終え、各職場に配属され、学生時代には考えられない体験をしていることと思います。

 学校を卒業すれば社会人となり働かなくてはなりません。「働く」という意味をあまり深く考えずに就職された方も多いのではないでしょうか。

「こんなはずではなかった」

「こんなことをするために働いているのではないはず」

「労働時間だけ身売りして、それ以外は自分の好きなことをすればいい」

「上司になんでこんなに拘束されて怒鳴られなければいけないのか」

入社1、2年目の社員の率直な感想です。

アカデミックな場から突然、社会に組み込まれてしまうため理想と現実のギャップにあえいでいる新入社員をよく見かけますが、恐れることはありません。「働く」ということをもう一度考えていくことで「自分らしさ」と「生きがい」を獲得することができるのです。

 

Aさんの挫折

大学卒・大手企業に就職。3カ月の新人研修を終了後、経理部に配属。

Aさんの会社は、社員のほとんどを理系が占めており、文系であるAさんとは物事の解釈が違うことに改めて気付かされました。

自分は人生について学友と話し込んだ分、理系の人たちよりも物事を深く考えていると実感したそうです。

彼は理想を理論化し、必ず意味を持たせます。いわゆる理屈っぽいのです。

「学問的真理は存在し、かつそれは正しい」と認識論を唱えたカント(ドイツ哲学者:1724~1804)を尊敬しており、新人研修のときにカントの素晴らしさを同期のみんなに熱く語りました。

しかし、難しくて理解してもらえませんでした。

新人研修では、何事にも積極的に挑戦し、経理部に配属されました。

そこでは毎日各部署から上がってくる伝票の整理が待っていました。

 

自分の理想としていた仕事をさせてもらえない

こうして3カ月が過ぎましたが仕事は同じような伝票整理の繰り返し。ついにストレスが上限に達し、上司に

「いつまでこの仕事をやればいいんですか」と口ごたえしてしまいました。

そして上司から

「経理の基礎も知らないで、いつまでやればいいのかなんて聞くのは10年早いぞ!」

と一喝されてしまったのです。

Aさんは

「こんなことを続けて何になるんだ。早く経営企画部に配属されて企業を根本から見つめたい。そのために大学で学んだのに……」

と不満を口にします。

そんなある日、上司から突然呼び出され、「今の仕事を続けながら簿記の資格をとるように」と命令を受けました。しかも期限はたったの2カ月で。

仕事はどんどんきつくなり、入社して10カ月が過ぎた頃には不眠が続き、朝は起きられず遅刻が多くなりました。仕事でもミスが目立ち、集中力もなくなってきました。

自分の理想としていた仕事をさせてもらえず、今まで自分は何のために学問をしてきたのかと後悔します。

「大学を卒業すればエリートサラリーマンの切符を手にできる。年収2000万円も夢ではない」

と思っていたAさんの初めての挫折でした。

その後、Aさんは休職し、心療内科へ通院。カウンセリングを受けるようになりました。

 

まじめに働くのがばからしくなると転落の人生へまっしぐら

「働く」ことは生活をしていくためであり、そこそこの給料を稼げれば後は余暇を楽しみたいと考える人もいます。仕事に対して積極的に向き合うわけでもなく、ひたすら時間が過ぎることを待ち、退社時間になるとテンションが上がる。会社の同僚とは付き合わず趣味の仲間と盛り上がる。

給料の使い道は人それぞれですが、どのような仕事をして給料をもらっているのかなどは考えません。

仕事を工夫することもなく、会社に貢献している実感もありません。

こんな待遇なのだからまじめに働くのは損だと考えます。

こう考えると、まじめに働くよりも短時間で手っ取り早く稼ごうとします。「お金さえあれば幸せ」と考えれば詐欺まがいのこともやるし、いかがわしい商売にも手を染めはじめます。

こうしてお金を稼ぐことだけに専念してしまうと「自分らしさ」はすっかり失せてしまい、さいごは転落の人生となってしまうかもしれません。

 

目標があるから、耐えることができる

「自分を育てるため」に働けば自分の血となり肉となります。

スポーツ選手を例にとってみましょう。自分の目標はオリンピックで金メダルを獲ることとします。そのために日々トレーニングを積みます。きついトレーニングに耐えられるのは金メダルという目標があり、それが自分らしさ(いきがい)でもあるからです。

サラリーマンも同じことが言えます。サラリーマンの場合は、日々のトレーニングは「働く」ことです。「働く」とは日々耐えながら実務をこなすこと。しかしこれは単純作業の繰り返しではありません。

日々実務をこなしていくと、やがて目標が見えてきます。この目標は他人から与えられたものではなく、自分で見つけ出したものです。

それを獲得すれば迷わず気力も充実し、「生きがい」になってきます。「自分はこの価値で生きる」と決めることができた人は外的指標(年収2000万円とかブランド)に振り回されなくてすみます。外的指標は後からついてくるちょっとしたプレゼントです。

外的指標とはスポーツ選手が金メダルを獲得した後の広告収入のようなものです。広告収入を目標としていれば日々の練習に耐えるのがバカバカしくなるものです。自分を鍛え、その先の金メダルを目標としているから耐えられるのです。

「自分らしさ」と「生きがい」はセットです。自分らしく生きれば生きがいも生まれるのです。

Aさんは「働く」という意味を取り違えていました。大学で学ぶ目的は年収2000万円のためだったのです。

「現実との妥協」を知ることは社会人として必要なことです。学校では学問を教えますが矛盾に満ちた不条理な社会を教えません。

 Aさんの場合は、

「つまらない仕事でも、このまま延々と繰り返されわけではない。まだ自分の目標がみつかっていないのだから今は目の前の実務を淡々とこなしていこう」と考え、日々耐えることで前に進むことができます。Aさんでしか見出せない「Aさんの生きがい」につながる仕事が見えてくるのです。

 

新しい上司の影響

Aさんは3カ月の休職後復職しました。異動で新しい上司に変わったこともあり上司とのコミュニケーションも良好です。

新しい上司のAさん評です。

「A君のように頭でっかちな新入社員は高い目標を掲げすぎて現実ばなれしているのです。淡々と毎日が過ぎていくので面白みがないと感じているのでしょう。「何か面白いことないかなあ」と彼がつぶやいているのをよく耳にしました」

そして次のようにきっぱりと語ってくれました。

「上司の役割は二つあります。一つは財務表を見て企業の利益を追求するために改善していくこと。そして二つ目は財務表には見えない人材という資産を大きくしていくことです。人材を育てることは企業の活力となっていくんです。

A君の優秀な能力を見極め指導していくのは上司の腕のみせどころですよ」

Aさんが「働く」ことを考えはじめたのはこの上司の影響が大きかったようです。今、Aさんは、日々の実務に耐えながら経営企画部で働くことを目標に生きがいを見出しています。