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草食系男子とエディプスコンプレックス  ~殺人で追われる悪夢に悩まされるMさん~

2009/12/01
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みらい総合心理研究所 所長 岸井たみえ

 

昨今、草食系男子、肉食系女子という言葉が若者の間で流行っています。男らしくない男子、女らしくない女子の代名詞のようです。

真の男らしさ、女らしさを考えるときに、フロイトのエディプスコンプレックス(エレクトラコンプレックス)の視点でとらえてみると一つの方向性がみえてきます。

そもそもエディプスコンプレックスとは古代ギリシャのエピソード(父を殺し母と結婚したエジプスの悲劇)から名づけられたものです。男の子が成人していくプロセスで、異性である母を独占して愛する幼児愛という一方的な独占欲の時期から、母を巡って父と争いながら男らしさを獲得していく心理的過程をフロイトは分析しています。

フロイトの凄さは自分を分析しながら男と女の葛藤を乗り越えて男らしさを追及したことです。果たしてフロイトが本当に男らしかったかどうかは別としてですが……。

前号(11月号)で掲載したMさんを例にとってこの問題を考えてみます。

Mさんは現在「うつ病」の診断書が出て休職中です。

「人を殺してしまい全国に指名手配されて逃げ回る」夢を見て早朝3時に目がさめ、寝付けません。抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬を服用しています。

 

休職にいたる原因

ある日、Mさんが部下に指示していた仕事に重大なミスが生じました。指示の仕方が悪かったのですが、Mさんは部下のミスと上司に報告しました。

上司は部下を呼び、説明を受けましたが当然Mさんの指示ミスだとわかってしまいました。

Mさんの信頼はなくなり、部下との確執も強くなり、職場の雰囲気は険悪になっていきます。Mさんは席に座っているのもつらくなり、休みがちになりました。

 

幼児期のエディプスコンプレックス感情

私の分析ですが、Mさんは幼児期のエディプスコンプレックス感情が強く、母を愛するあまり無意識に父を憎み「父が死んでしまえばいい」と考えていたようです。

しかし、このような気持ちは自覚したくありませんから「父が死んでほしい」という気持ちを抑圧します。

抑圧していることに自覚はないものの日常行動では慈善活動(少年野球の世話役)をすることで埋め合わせをして心のバランスをとっていたのです。

 

Mさんの生育歴

Mさんが6歳の頃、父が35歳で病死をしました。母は31歳、妹が3歳の時でした。母はその後、再婚もせず子どものために定年まで働きました。

 

Mさんは、母が休日出勤の時には妹に夕飯を作り、母が帰宅するまで留守番をするしっかり者でした。

母からはとても頼られており、「孝行息子」と周囲からも認められていました。

 

思春期の初恋とダメージそして結婚

初恋は中学2年生の時でした。聡明で自分の意見を持った女の子でした。

しかしそんな初恋は同じクラスのサッカー少年に横取りされてしまいます。

このときのダメージは大きく、自分の非力さを知り、男としての魅力のなさに苦しみました。

この頃からMさんは女性に対して劣等感を持ちます。

女性に対する憧れは母への執着となっていきます。母を支えることで自分を保つことができました。

その一方でスポーツ(野球)に専念します。大学時代はレギュラー選手として活躍しました。

しかし、女性には縁がなく、母から「早く彼女を連れておいで」と言われますが「彼女がいない」とも言えず「彼女は忙しい人だから」と言い訳をし、母を安心させます。

Mさんは「女性から求められる男性像」が具体的に描けません。スポーツで体格は男らしく鍛え上げましたが、女性と触れ合う心の成長が未熟でした。そんな自分にひけめを感じ、若い女性とのふれあいを避けることで自分を防衛します。エディプスコンプレックスでいう「反動」にあたります。

この頃から悪夢にうなされることが度々ありました。

「見知らぬ女性に何かを叫んでいる夢」

「何かを必死に探している夢」

「初老の男性に声をかけられ逃げ出す夢」等で目覚めが悪く、疲れた日に多くの夢を見ました。

大学卒業後、大手企業に就職、29歳の時に母の友人の紹介でA子さん(25歳)とお見合い結婚をしました。

A子さんの謙虚でつつましいところに魅力を感じたそうです。

結婚にあたってはA子さんの母と同居をするという条件に同意し、義母に対しても親しみを感じ、二世帯住宅で結婚生活がスタートしました。

 やがて1男1女をもうけます。仕事が忙しいということもあり育児に積極的に関わることはなかったのですが、幸せな家庭で、Mさんの心は安定していました。

 

少年野球をやめた長男と大喧嘩

元来野球が好きだったMさんは長男が小学校1年生になったとき少年野球の世話役になり、長男と一緒に休日を過ごします。

ところが長男は中学生になると、野球をやめてサッカーをやりたいと言い出しました。

Mさんは

「せっかく続けてきたものを途中でやめるなんて忍耐力がなさすぎる」

と長男を責めます。しかし、長男は

「お父さんはいつも自分をコントロールしようとする。自分の気持ちを理解してくれない。お母さんは分かってくれたのに……」

と殴りかかってきました。

ここでMさんは、中学時代に好きだった彼女をサッカー少年に奪われた記憶がよみがえります。「サッカー」を選んだ息子にどうしても反感を持ってしまうのでした。

それ以来、長男との仲は険悪になり、お互い口もきかず、無視をします。

やがて長男の不登校が始まります。

Mさんは、不登校の原因は妻が長男を甘やかしているからだとA子さんに対しても冷たく接していきます。

夫婦の関係にも亀裂が入ってきました。

 

悪夢のはじまり

長男との諍いをきっかけに家庭はばらばらになっていきました。家族を守ることに自信がなくなったMさんは、家族から心が離れ、会社と休日の少年野球の世話に没頭していきます。

悪夢はさらにMさんを悩ませ「殺人者として指名手配され逃げ回る夢」を見るようになりました。

夢を見た後、罪悪感と孤独感を強く感じます。日曜日に夢を見ることが多く、月曜日は会社を休むことが多くなり、焦燥感と不安な気持ちで1日を過ごすようになります。

会社でも集中力がなくなり小さなミスを重ねるようになりました。イライラしていることは周囲の人にも影響を与え、部下にあたることが多く、上司に注意をされました。そして冒頭の指示ミスです。

早くに父を亡くしたMさんは上司に対して父親のような感情を持ち、尊敬していました。そして、この上司についていけば自分の将来は明るいと考え、部下に対しても上司を手本にした接し方をしていました。

ところが部下からは、Mさんは上司に依存し部下を積極的に指導できるタイプではないとみられていました。

Mさんは自己評価が低く、管理職試験に対しても消極的でしたが40歳の時にチャレンジし、合格した経緯があります。

小さい時から対人関係がうまくいかないのに部下の指導などできないと思っていたようです。       (続く)