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解雇とS子さんの葛藤

2009/05/01
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みらい総合心理研究所 所長 岸井たみえ

 

「契約期間満了のためクビになりました」とA社の元嘱託社員S子さんが相談に来ました。

「クビになった以上、私は1カ月分の給料が欲しい。人事部長に電話したいと思いますが、いいですよね」という相談でした。

ことのいきさつについて詳しく説明を聞きましたが、なんとなく腑に落ちませんでした。

それでも、とにかくS子さんの気持ちに耳を傾けることにしました。

 

<解雇のいきさつ>

2年前、S子さんは専門職として人材派遣会社から大手企業A社に派遣されました。そして昨年、雇用契約期間が満了となりました。

A社の直属の上司は、S子さんにこのまま勤務してもらいたいと希望しましたが、派遣社員という身分では働くことができません。

そこで、嘱託採用をしたいというA社の申し出を受け、1年契約の嘱託としてあらためて入社することになりました。

A社は専門性の高いS子さんに期待を寄せ、待遇も好条件で順風満帆に1年間を過ごしました。

ところがA社も100年に一度の不況の波を受け、社内でリストラのうわさがチラホラとではじめました。

そのような時に、自分の契約期間満了が間近に迫ったことに気付いたS子さんは、直属の上司に相談しました。

そこでS子さんはリストラの対象ではないので雇用を継続したいと言われました。ただし、継続するにあたり、上司は「もっと積極的に仕事の範囲を広げてもらわないと困る」

と条件をつけたのです。

このご時世なので、上司は人事に対してS子さんの積極性を伝えたくて条件をつけたようです。

 ところが、条件を聞いたS子さんは、

「自分から積極的に仕事の範囲を広げることはできません。与えられた仕事をこなしていくだけで精一杯です。無理なら辞めます」

と言ってしまったのです。

嘱託で入社できたときには、こんなに条件のよい職場はないし、定年まで続けようと考えていたはずなのに……。

上司は説得を試みましたが、S子さんは一度言葉に出した「辞める」ということに固執してしまい、話は人事に移されてしまいました。

人事課長との面接はとても事務的で、

「会社が要望していることができないということであれば期間満了という形で確認したい」

と伝えられ終了。翌日S子さんは人事から一方的に解雇を通告されました。

腹の虫がおさまらないS子さんは、人事部長と話したい旨のメールを出しましたが、人事課長は

「部長にまであげる話しではないので、もう一度話しをしたい」

と言うもS子さんはあくまでも部長との面談希望を主張。

二日後、人事部長との面談で部長は、

「直属の上司からの話を聞く限り、退職の意志を伝えたのはご自身であり、課長からも報告を受けている」。

S子さんはこの時点で後悔をしており、辞職を撤回しようと思っていましたが継続の条件とされた「仕事の範囲を積極的に広げること」にひっかかってしまい、契約期間満了で退職することに同意してしまいました。

 

<気持ちの整理がつかないS子さん>

S子さんの憂鬱はここから始まります。

専門性の高い職種だけに、派遣が多いこと、A社のような好条件での働き口は見つかりそうもないこと、収入が半減してしまうこと……。現実が次々と襲ってきました。

そんな折にS子さんが相談にきました。

カウンセリング中、後悔と落胆と恨みの感情が行きつ戻りつしています。

結局S子さんは人事部長に1カ月分の給料を支払ってもらうために交渉すると決めました。一方的に解雇されたことに腹が立ってきたからです。

そして1週間後、2回目のカウンセリングで、S子さんは「1カ月分の解約金をもらうことになった」と報告してくれました。

そのいきさつを話すS子さんの表情は暗く、苦渋に満ちていました。

 

<1カ月分の解約金>

交渉の経過は次のようなものでした。

「会社が私を必要だからということで雇用契約をしておきながら、契約期間が満了になったので解雇されるのは勝手すぎる。突然のことなのでこちらの生活もあるので1カ月分の退職金を出してほしい」と要求したところ、人事部長は、

「退職金規定はないし、1カ月分の給与の根拠は何なのか、そもそもS子さんから退職希望をしておきながら今更何を言っているのか理解できない」

「会社としての雇用責任がある以上、支払うべきであり、保証をしてほしい。1カ月分の根拠は失業保険がおりるまでの分ということです」

「もう一度、上席と話しをしないと……今この場での結論は出ないので明日返事をします」

半日後、部長より電話があり、

「弁護士と相談した結果、解決金という名目で支払いたい。了解であれば『今後一切、当社に対して干渉しない』という書類に捺印してほしい」

「その書類の捺印はできません。『両者納得の上、○月○日で契約終了として解決金を支払う』ならば了承します」

人事部長は弁護士と相談した結果、両者合意ということで結論を出したそうです。

解約金を受け取ることになったS子さんですが、気持ちの整理はつきません。「雇用責任があるにも関わらず一方的に解雇したA社と裁判をしたい」

とまなじりを決した形相で帰っていきました。

 

話の内容がどんどんすりかわっていくS子さんの心境にとまどいを覚えるのと自己反省力の薄さに、現代の心の病を感じました。

一体どちらが弱者なのか私には判断がつきませんでした。(以下次号)