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「僕は見返してやりたい」

2009/01/01
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みらい総合心理研究所 所長 岸井 たみえ

 

「見返しをしてやりたいんです。」

眼光は鋭く言葉に力があります。

横に座っていた妻が一瞬たじろぎました。

「こんなに力強い夫をはじめて見ました」

Aさんが「ヒーロー」になった瞬間です。

 

上司の暴言で休職

AさんはIT関連会社のSEの職にありましたが、通算2年間休職しました。昨年12月、復職のための最後のカウンセリングでの場面です。

こんなに長期間の休職に至ったキッカケは上司の暴言でした。

プロジェクトの納期に追われ、月の残業が100時間を超えている状況が半年も続いていました。

過重労働が続くと集中力がなくなりミスが増えます。

上司からミスを指摘され、

「こんな単純なミスをするから納期に間に合わないんだ!もういい!仕事はオレがやる」

と感情的な言葉が飛んできました。

「じゃ、休んでいいんですね」

と思わず言葉を返し、3日間有給をとってしまったのです。

休んでいる間、休息をとったことで体も楽になり冷静さを取り戻すと、後悔の念が生まれてきたそうです。

上司とゆっくり話し合おうと思い直して出社すると突然、異動の話を告げられました。

他のプロジェクトへ異動し、黙々と仕事をこなすうちに、明るく面倒見のよかったAさんは別人のようになってしまいました。

寡黙になり、やがて笑顔さえみられません。

飲み会にも出席せず、再び残業が増えていく日々が続きました。

孤立感は高くなり、仕事の重圧だけが肩にのしかかってきます。

上司に対して「分からない、できない」と言ってはいけない、言うとはずされてしまう、と考えるようになり、ことわることができず毎日残業をする羽目になってしまいました。

異動をして3カ月が過ぎる頃から、寝ていても朝の2時頃には目覚めてしまい、あとはウトウトするような睡眠状態が続きました。

やがて朝起きると、吐き気、頭痛が始まり腹痛で途中下車をすることも多くなります。たびたび休暇をとることとなり、ついには上司に相談をし、休職することとなりました。

 

「1カ月の休職を要す」という診断書を提出し休職に入り、精神科にて服薬を続けましたが、なかなか復職できる状況にはなりません。その後、休職を3カ月延長しました。

服薬で精神が安定したとき、主治医と相談し「復職可」の診断書を提出。こうして復職しましたが1カ月後に再び休職です。

しかし、就業規則上ではこれが最後の休職期間となります。ですからカウンセリングでは、復職をするというある意味強引な目標を立てました。

最初のカウンセリングのとき、Aさんは休職に至ってしまうきっかけの話をしてくれました。

「上司がきつい言葉で接したり無視をする、と感じた時に、自分は役に立たない、無用な人間であると考えてしまうんです」

それが休職の原因でした。

しかしAさんの背景を探っていくと、小学校低学年時に「スイミングスクールを今日は休みたい」と父に伝えたところ、父から体が壁にぶち当たるほどの力で殴られた経験があるということを告白されました。

現時点でAさんの子供時代のトラウマを扱ってしまうと更に傷を深めることになるため、その部分にフォーカスすることはやめました。

 

負の連鎖、自己同一的思考を断ち切る

そこで、このような経緯にあるAさんにみられる特徴的な思考(自己同一的思考)を変化させることに絞って方針をたてました。

自分が考えていることは他人も同じように考える。

      ↓

上司が怒るのは自分が嫌いだからである。

      ↓

自分が嫌いだと感じている人は、その人も自分のことを嫌っている。

      ↓

自分は上司にとって不必要な人間で役に立たない。

      ↓

会社に行っても役に立たないなら辞めるしかない。

 

このように自分の世界で他人を理解してしまい決定してしまうので、負(マイナス思考)の連鎖が始まり、苦悩の世界から抜け出すことができません。

 そこで次のように考えたらどうかと提案しました。

 

自分のことを知っているのは自分であり、他人の気持ちは分からない。

       ↓

上司が怒っている理由は上司しか分からない。

       ↓

自分が嫌われていると感じることは自分だけであって他人には直接聞かなければ分からない。

       ↓

自分の勝手な推測で他人の考えを決めてしまうと、他人との葛藤が増幅してしまい明確な答えがでずに動けなくなってしまう。

       ↓

負の連鎖から抜け出すために、上司に怒った理由を聞く。これが答えになる。

       ↓

その理由が自分の人格を傷つけられるようなことであれば毅然と自分の人格を守ろう。冷静に自分は傷ついたと言おう。

       ↓

単に自分の行動に対して注意されたのであれば整合性を確かめて自分のとった行動の理由を言おう。

Aさんは毎回カウンセリング時にノートをとり、この考え方を声を出して復唱しました。

自己暗示です。

 

「人間って変るんですね」

このようなカウンセリングを続けたところAさんに明るさがもどってきました。

そして、いよいよ翌週から復職という日になりました。

Aさんは、

「どうしてこんなに他人のことだけに捉われていたのか……。そんなことで自分の人生を捨ててしまい家族まで路頭に迷わせることになってしまった」

「今までの時間を取り戻したい。働くということは自分のためであり結果的に会社のためになることだ」

「自分が働くことで、はじめて自分が成長することに繋がる。その線上に他人がいる」

「成長できる他人に対しては感謝をし、自分が傷ついたときは、その相手に対して自ら距離を置こう」

そして、

「本当に自分と他人との距離の取り方が理解でき、自分が主体的になれました」と語ってくれました。

最後に、「僕は見返してやりたい」と自分に言い聞かせるのでした。

 

カウンセラーとしての至福の喜びはこんな瞬間なのです。

だからカウンセラーって辞められません。

 

復職後にAさんと面談をしました。

童顔のAさんはヒゲをたくわえ背広がよく似合っていました。

「人間って変わるんですね。今は楽しんでいます」と彼。

 

あーやっぱりカウンセラーって辞められない!!

人から感動をもらえる職業を今年も続けていこうと確信しました。

Aさんは私の「ヒーロー」になりました。