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こんな部下が上司をうつにする

2008/12/01
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みらい総合心理研究所 所長 岸井たみえ

 

失恋でうつ、自宅療養1カ月を要す

大手企業I社は3年前よりメンタルヘルスを導入。人事、管理職、衛生管理者、労働組合役員、産業医、カウンセラーによる委員会をを月1回開催しています。そこで管理職から次の相談がありました。

突然部下のB子さん(27歳)から「うつ病。自宅療養1カ月を要す」という心療内科医の診断書が提出されました。

「最近B子さんは休みをとることが多く、体調が悪いのかなと思っていた矢先のことでした。原因が分からず、診断書の通り休職させてよいのか迷っている」という内容でした。

そこでさっそくB子さんと面談したところ、原因は失恋でした。社内の男性を好きになり、その想いを捨てきれずに悩み続けていたそうです。

彼はB子さんが関わっているプロジェクトの応援に来ていて、苦手な仕事を手伝ってくれたそうです。率先して仕事を進める行動的なタイプです。やがて彼女は恋に落ちました。それから彼の一挙手一投足が気になり、彼が他の女性と話していると嫉妬を覚えるくらいになったそうです。

プロジェクト達成で打上げをすることになり、幹事はB子さんになりました。その日の彼女は朝からテンションがあがりっぱなしで仕事が手につかなかったそうです。宴会では彼の隣の席についてドキドキ。普段タバコの煙を嫌っていた彼女は彼の吸うタバコの煙さえ心地よかったと言います。

ところが、その宴会の席で彼は社内の女性と結婚すると嬉しそうに話したのです。相手は彼女も知っている女性でした。

その夜から眠れなくなり、彼と婚約者をも恨むようになりました。ついには抑うつ症状が出てしまい、診断書を提出する経緯になりました。

その後2カ月の休職を経て復職しましたが、復職の2週間前にカウンセリングを受けにきたB子さんはとても元気で溌剌としていました。暗い表情は消え、心なしかお化粧も前より濃い感じがしました。私の「復職に際して気分は安定していますか」という質問に

「はい!彼ができたんです。休職中に沖縄に行ってきて、そこで知り合ったんです」

「えっ!!休職中にですか?」

「はい。彼も休職中で癒しのために沖縄に来ていて、そこで意気投合して……」

二人がお付き合いするのはいいのですが休職中に旅行に行けるという状況の理解が私にはできませんでした。

確かに治療に向けての産業医面談が終了後の事とはいえ、その足で沖縄に旅立つB子さんの考え方に本来の「うつ」というより気分障害性の高い「うつ症状」のような気がしました。

元来の古典的うつであれば人ごみを避け、休職しているだけで人に迷惑をかけているという自責感が強く、旅行に行けない人が多いのですが、最近はB子さんのようなケースが目立ってきています。

 

部下に振り回されてうつ病に

IT関連のリーダー職のDさん(男性30歳)は部下の管理がうまくできないという相談にきました。「うつ病」の診断書が出ており、6カ月間の休職中です。サブリーダーを3年間勤めリーダー職につき5カ月後に自分の後任になったAさん(男性25歳)のことで悩んでいました。

職場は裁量労働制を導入しており、本人の仕事量にまかせて勤務時間を決めています。しかし、Aさんは出社時間の連絡もなく出勤していることが多いため、連絡するように注意をしました。

するとAさんは

「どれくらいの残業をしているのかわかっていますよね。疲れているんですよ。仕事のスケジュール決めは守っていますよ」と強い口調で言ってきました。そして

「Dさん、上司だったら部下の気持ちを察して下さいよ。僕だって部下のマネジメントをしながら自分の仕事をしているんですよ。いちいち出勤時間のことなんか言っていたら部下は仕事しませんよ。もっとやるべきことがあるんじゃないですか」

Dさんは自分の部下に対するマネジメント力のなさを指摘されたと感じ、自信を喪失してしまいました。

Dさんの話をよく聴いていくとAさんの言葉には矛盾がありました。Aさんの部下から仕事の指示がなく丸投げ状態であること。結局はDさんがAさんの部下に指示を出し、その分自分の仕事は深夜残業でこなしている状況でした。

これ程までに強い不満をぶつけてくるのはAさんの査定が低かったことが原因だったのだろうか。部下から信頼されていないとDさんは考えてしまいました。

人事部長、DさんとAさんの上長、私の3人でDさんのカウンセリング状況を話し合いました。

Dさんはサブリーダーの時代は部下の教育と自分の仕事に対してのバランスもよく積極的にチーム力を上げていくことができていました。リーダーになった時には、自信とエネルギーに溢れており部下の信頼も厚かったようです。

Aさんは途中入社で前職での実力をかわれ入社1年目でサブリーダーに就いた経歴があります。

上長から今回Dさんが休職に至った主な原因はAさんの性格的な問題ではないか、との話しがありました。以前、Aさんの仕事のやり方について指示を出した時、真剣に聞いているのかどうか分からない態度だったので、もう一度確認すると「分かってますよ」とキレ気味な口調。「まあ理解してくれているのなら」と仕事を任せていたことがありました。ところがスケジューリングの打合せ会議で、終了しているはずのAさんの分担が未処理であったため事情を聞くと「上司が何も教えてくれない。仕事をあたえる以上、上司から声をかけるのが筋だと思うので待っていたんです」と、まるで他人事のように話したそうです。

会議に出席していた人達も唖然とし、結局Aさんの分は、早く仕事を完了できた人にまわり、Aさんは上長から1時間ほど事情徴収され再教育期間として1カ月間「負荷のない仕事」をしていました。その後、復帰意欲が出てきたのでDさんの下でサブリーダーとして仕事をし始めた矢先のことだということがわかりました。

 

「双極Ⅱ型」という気分障害

「自己愛が強く幼稚な思考、失敗したことは人のせいにし反省する能力がない。人間関係がうまくできないための苛立ちからくる攻撃的反応。場が読めないために他人から距離をおかれてもあまり気がつかないおおらかさ。倫理観正義感が思考の中心で臨機応変的な考えができない。他者を非難する」

最近はこのような傾向の2~30代が多くなっています。Aさんのような性格の方がうつ病を発症したならば「現代型うつ病」としてDさんの「古典的うつ病」と区別せざるを得ません。

Aさんは注意されたり叱られたりすると感情が高ぶり客観的に考えることができないのです。自己に執着が強く「他人が何のために自分に言っているのか」ということを理解する能力よりも「自分を傷つけた」という解釈が優先します。

もちろんここで大事なことは無意識レベルのことだということです。

また、B子さんも一方的に好きになり勝手に感情が高ぶったかと思えば失恋したとうつ的になり休職してしまう。そして休職中に旅行に行けば彼が出現し、この間の悲恋物語はどこへ行ったのやら、至福の時間を過ごすことができるのです。

彼と婚約者を恨む感情もAさんと同じような心理状態です。B子さんも無意識のレベルで「私を捨てた彼」という感覚が優先しています。救いは新しい彼が出現したことで、B子さんの執着は消えたのです。この二人の関係がハッピーになるかどうかは別として……。

「双極Ⅱ型」(AさんやB子さんのような気分優位)は、気分障害が主な症状でさっきまで怒っていたのに、ふとみるとゲラゲラ笑っているという感じが分かりやすいでしょうか。特徴的な思考、行動は、前述したような傾向があります。

ここで強調したいのは、決してAさんやB子さんに対して思考や行動を責めているのではないということです。無意識のレベルで行動してしまうからです。小さい頃、風邪をひいて寂しかった時に家族が優しくしてくれたというエピソードを意識していなくても何か状況的に困ったことがあると自然に弱者になってしまい周囲から同情してもらう行動に出てしまう。このような行動を心理的に言うと無意識の「疾病利得」と解釈します。

今回私が強く思うことは、うつ病にも原因があるということです。

まじめで責任感の強い人が月100時間残業を半年も続け、「うつ病」を発症し、「うつ病の診断書」を提出した途端解雇になった人。一方、失恋が原因で休職し、その期間中に恋人ができると回復し元気に通勤している状況を目の当たりにすると、今までの「うつ病」という認識を改めて考え直さなければと思う今日この頃です。