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(続)昇進うつ

2008/11/01
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みらい総合心理研究所 所長 岸井 たみえ

 

管理職試験に合格し、課長の辞令を受け転勤したA子さん(40歳)は、1ヵ月後に体調をくずしカウンセリングに来所しました。

本社から転勤した地方都市で待ち受けていたのは部下20数名。3分の2が年上の男性社員でした。

A子さんを一番悩ませたのは課長代理のB氏(52歳)でした。

ここまでは本誌8月号に紹介しました。今月号はその後について紹介します。

B氏は大学卒ですが昇進が遅く、心の歪みがあるようです。赴任後、A子さんはB氏から様々な嫌がらせをされ、疲労困憊の日々が続くことになります。

 

居酒屋残業事件

赴任の数日後、B氏は自分のグループ3人と営業と称し17時から居酒屋でお酒を飲んでいたことが発覚。所長からB氏に厳重注意をするように言われたA子さんは「何で私がその役を…」と思いました。

最初の大きな仕事が「残業時間を申告しながら居酒屋にいたことの説明を聞く」ことだったのです。

しかし、「部下である以上、仕事と割り切ってB氏と向き合おう」と心を鬼にして面談に臨みました。血圧は上がるし心臓はドラの音が響き渡りました。

まず、B氏の部下3人と個別面談をし、状況を聞きました。

3人ともB氏の誘いを断ることができず、ついつい同行してしまったとのことでした。

そして残業代を天引きすることで処分はなし、という結果で終えました。

そこで問題のB氏です。部屋に入るなり、腕組み、足組みをしながら「何か!!」の第一声。

部下3人からのいきさつを伝え、事実確認をしたところあっさりと認め、残業代天引きにも同意し、今後このような就業態度をあらためるように注意すると「はい!!」と言って退席していく様子に思わずA子さんは「反省しているんですか」と聞きました。B氏は「謝っているのにこれ以上何を言えば気がすむんですか!!」と捨て台詞を投げかかけドアに八つ当たりをして退室していきました。

この事件がきっかけでB氏は非協力的になり、あいさつもしない、目も合わせない、分からないことを聞いても資料を提出し、指さすのみで声を発しません。

懇親会をすることになり3グループに分かれているので、日程調整をするとB氏のグループは日程が合わないことを理由にキャンセル。

B氏の部下たちは申し訳なさそうな態度で接してくれますが、B氏は完全無視の態度です。

所長に相談すると「彼は変人で皆迷惑しているんだよ。適当にあしらっていればいい。前任課長もずいぶん苦労したしね。転籍も考えているから…」と他人事です。

「所長、それでいいんですか?」といいたかったA子さんですが心の悲鳴は所長に届きません。愕然として仕事が手につかなくなりました。

本社勤務時代の上司に相談すると「もっと強い態度で接しろ。弱すぎる。いつまで主査の気分でいるんだ。能力のない管理職は部下になめられるんだ。こんなことくらいで音を上げていたら営業成績が上がらないぞ」

又、さらなるプレッシャーが波のようにA子さんに打ち寄せてきて孤立感が深まりました。

カウンセリングでA子さんは自分の管理能力のなさを切々と訴え退職まで考え始めたといいます。

 

新プロジェクトへの協力をB氏に要請

更に悩ませる事態が発生しました。営業不振のため新しいプロジェクトを立ち上げることになったのですが、成功させるためにはB氏の協力が必要でした。

査定をする時期も近づいたこともありB氏との面談をせざるを得ず、新しいプロジェクトの説明と協力要請をする決心をしました。頭を下げてでもB氏と一緒にやっていこうと強い意志を持ち面談をしました。

B氏はA子さんの前に座らず、避けるように席につきました。

プロジェクトの説明をし、「是非力を貸してほしい」と伝えると

「新しいプロジェクトだろうが給料分以上は働かないよ。今までずうっとそうしてきた」

「私に対して不満があるのなら聞かせて欲しい」

「女だからとか年下だからなんて思っていないし、会社に対して不満があるだけだ」

「私は管理職として会社の意向を伝えていく立場にあるのでBさんの気持ちを率直に伝えてほしい」

「何もないです」

「あなたの考え方はよくわかりました。しかしあなた一人が会社に対して不満を持ち、改革を望んでも、あなた自身が変わらなければ会社はあなたに対しての評価も変わらないと思いますが……」

「それでいいんじゃないですか」

「よく分かりました。しかし今回のプロジェクトは私としても皆さんの協力のもとにやっていきたいと考えています。あなたが給料以上の働きができないと判断した時は、私に伝えてきて下さい。その時に私の考えも伝えていきます。査定については追ってお知らせします」

A子さんは、自分の言葉でB氏に伝えたあと、これでよかったと思い、少しスッキリしたそうです。

B氏の考え方を聞き、自分に対して不平不満があるというより会社全体いや、全ての管理職に怒りを持っていることがわかり、「私は自分のやり方で仕事をすればいい」と決意をし確信を持ったそうです。

 

10回目のカウンセリングでは明るい笑顔と自信が見えました。B氏の異動が決まったこと、営業不振を一気に払拭し、最初の目標を達成したという報告を受けました。

投薬もせずに、よくここまで持ちこたえたな、というのが私の感想です。

薬を飲むことをすすめたのですが、強い意志で、薬を飲みませんでした。そのかわりカウンセリングを週1回続けることと気分の落ち込みが激しい時はすぐに来ることを約束してくれました。

こんなところにもA子さんの頑固さと裏側にある弱気さがかいまみられます。

 

事が起きると人の長所が短所に変わる

人間の長所短所は事が起きた時に立場を変えます。長所が短所に変わり、短所が長所にもなるのです。

そのような状況を明確にその都度確かめながらカウンセリングを続けていくと自分の立場がブレずに対処することができます。

B氏との面談ではA子さんの長所(人の話を聞き、お互いに協力していく)が事態を悪化させていました。

短所である(人に強い口調で言ってはいけない)と考えていることをA子さんなりに変化させ、納得した上でB氏に伝えていくことを目標にしました。

人に強い口調で言うことも様々な状況で必要であること。ゼロか100かではなく、「今、何が必要か、どのように接することが一番有効なのか」を優先して考えることをA子さんは実践することができたようです。

自分らしさをこわさずに対人関係を整理することができれば様々なことに対処できる力がつきます。

心が辛くなった時は、自分の正しいと思ってしまっている考え方に押しつぶされている状態です。そんな時ほど縛りつけられている考えを解放する時です。

みなさんも自分の長所、短所、「~べきである。~ねばならない」等の自分の思い込みを明確にすることで「今、ここで」必要な考えは何なのかを見つけてほしいと思います。

A子さんは今、新しい価値観を手に入れ、管理職としての仕事に頑張っています。「人の話しをよく聞いてチームプレーを大切にしていきたい」という長所が十分に発揮できているようです。

 

次回は神経症の部下を持った上司の話を紹介します。