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昇進うつ

2008/08/01
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みらい総合心理研究所 所長 岸井たみえ

 

「課長の辞令が出てしまい、不安でしょうがないんです」

A子さん。40才・独身・通信業界営業部門。聡明で物腰も柔らかく、時々ふっとみえる笑顔は誰からも好感を持たれる雰囲気があります。訴えは続きます。

「多くの業務があり、何から手をつけてよいのか分からなくなってしまいました。管理職試験に合格した時は、今迄の仕事が評価されたという喜びを感じていたのです。しかし転勤先で待っていたのは20数名の部下で、しかも自分より年上の男性社員が3分の2を占めているんです。今でも最初のあいさつで何を言ったのか全然覚えていません」

困惑した顔に涙が伝っています。

本社勤務の時は朝7時出社で夜は11時まで残業。主査という立場で4人の女性社員と仕事に取り組んでいました。部下をマネジメントすることが苦手で自分でこなしてしまうことが多く、上司から「部下に仕事をまかせることも仕事だ」とよく注意されていました。

部下の失敗を引き受けることは上司としての責任だとわかってはいるのですが仕事を部下に振れません。

「仕事を部下にまかせて自分の本来やるべき仕事ができれば、とは思いますが、部下も残業して忙しそうだから……」

と考え、自分で仕事を背負いこみ、その結果、月平均残業時間100時間超になっていました。

「人に仕事を頼むと嫌われてしまうのではないかとつい考えてしまう。嫌われたくないんですね。良き上司でありたいという自分の願望があって。残業が多くてふらふらしながらでも部下の相談にのったり、飲み会に参加していました。これといった趣味もないし、かつては仕事に充実感があったのですが……」

昔を懐かしむA子さんは「課長を辞めたい……」と思いつめていました。

初回のカウンセリングでお話をうかがった時は、「やるしかないんです」と自分に言い聞かせるように頷き、「自業自得ですよね。自分から引き受けた以上……」とつぶやき、自分を責め立て、暗くて長いトンネルに自らの歩を進めていくような雰囲気をかもしだしていました。

A子さんのミッションは支店の活性化と売上30%増です。

部下は、課長代理(52才)、主査(45才)、一般職50代男性7名、40代男性6名、30代女性5名です。

主査は協力的で頼りになる人ですが、課長代理との関係がうまく持てません。

本来、課長代理を筆頭に売上を達成しなければならないのに、最初から拒否的な態度で接してきます。

部下を1人ずつ面談した際、課長代理は「ここの営業成績を上げるのは難しいんですよ。前の課長も頑張ってましたが結局ダメでね。私も協力して訪問数を増やしますよ」と他人事のように言います。

課長代理の評判は「上に厚く、下に厳しい。何事も正論で、屁理屈を言ってくる。自分の周りだけを固め、コミュニケーションを取りづらい」ということのようです。

所長からは「難しい人だけど、うまくやってくれ」と言われました。

A子さんは「評判は評判として自分の力で何とかしていきたい。合わないから、すぐに転部をさせるのは、自分の意志に反する」と固い決意であたりました。

仕事に対する評判があまりよくないのに課長代理という役職についていることについて、A子さんに聞くと「転部する条件に役をつけていたそうです」とのこと。なんだか課長代理の性格の一端を垣間見たようで妙に納得しました。

新課長として3カ月が過ぎ、体重は6kg減です。

「今までダイエットに挑戦しても痩せなかったのに、ずいぶんスリムになったので反面嬉しい」というA子さんですが、そんなこと言っている場合ではありません。「昇進うつ」状態ですから。

 

うつ病発症の三つの要因

うつ病の発症には三つの要因が考えられます。状況因と環境因と性格因です。

A子さんの場合はこうなります。

状況因:昇進

環境因:長女で両親の面倒をみており、ローンの返済もしている。

性格因:ストレス耐性能力が高い。頑張り屋。人見知り。NOと言えない。他人の目が気になる。緊張しやすい。新しいことを始めるときは、とても慎重。いい人だとよく言われる。漠然とした不安感がある。

いろいろなタイプの管理職がいます。仕事に向き合う姿勢も様々です。A子さんは部下に対して叱ることができない。どんな部下にもいい上司でありたい。上司として自分の失敗は許せない。部下にバカにされたくない。無能な上司と思われることが一番傷つく。一人でできることは人に任せず自分でやった方が気楽。常にこんなことを考えながら課長としての仕事をこなしているのです。

昇進をきっかけにA子さんのマイナス思考の側面が顔を出してきました。

高い理想の管理職像があり、それに近づこうと必死に努力しているのです。しかし、その理想像は他人だったらこう思うだろうと予測したものであって、自分で考え、傷つきながらでも培ったものではないのです。外見はよくできていますが、中がスカスカの状態であることにA子さんはまだ気がついていません。最近のA子さんは「部下を叱って育てる」というセミナーに申し込みました。(続く)