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ストレス耐性の低下と現代型うつ病と怖さ

2008/03/01
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みらい総合心理研究所 所長 岸井たみえ

 

大学3年生の娘さんが3カ月前に自殺をしたため、憔悴しきった50代後半の母親が自分の気持ちの整理がつかずにカウンセリングを受けました。

娘さんの小さい頃の写真をいつも身につけ「こんなに元気で明るい子だったのに……」と3歳の頃の無邪気に笑う娘さんの写真の上に涙が落ち続け、ぬぐおうとしません。

過去に想いをはせ、後悔の感情の中に没頭していきます。

母親としてなすべきことと、この現実のギャップを受け止められず自分を責め続けています。

「もっと早くあの娘のことを理解してあげていれば」  

「あのとき訴えていたことに気づけず、自分のことばかり考えていた」

「どんなに苦しい想いでいたのでしょうか。ふがいない自分が恥ずかしい」

「『死にたい』ともらした娘の言葉を軽んじてしまい、否定してしまった自分の薄情さ……」

 

生き返らない娘にしがみつき、何度「許してほしい」と願っても、娘から答えは返ってこないのです。

「目を開いて、息をして、あなたの声を聞かせて」という心の叫びは娘には届きません。

「母親としてこんなに重い十字架を背負って生きていく自信がなくなった。自分の命と引き換えにしたい」

セピア色の写真に落ちた涙の中に娘さんが埋没していきました。

 

彼女は生きていく力を失い、自分の命さえ奪いかねない強い失望の感情にいます。娘さんの生きてきた証に触れると更にこの感情は大きくなり自暴自棄になっていきます。

現実を受け入れられずに逃避することしかできない状況でした。

 

ストレスとうつ病と自殺の関係

自殺者が交通事故死の3万3千人を上回ったのは1998年でした。その後、自殺者の数は増加傾向にあります。

そして自殺者数と密接な関係にあるのがうつ病の発症率です。

うつ病の怖さは希死年慮(自殺願望)が強くなることです。その結果として自殺してしまう衝動にかられる心の病です。

うつ病の増加は社会状況のストレス増加に反応しているように思います。

1998年以降の10年間はストレス社会といっても過言ではないくらいストレスが社会にあふれているように思われます。

このストレスとうつ病は非常に高い相関関係にあります。すなわちストレスをうまく対処しないとうつ病の発症率が高くなるのです。

TV、新聞に取り上げられるニュースでは毎日のように劣悪な事件が起きています。そうした事件の背景を考えますと、事件の当事者がストレスをうまくかわすことができなかった(ストレス耐性が低かった)、ことも遠因としてあるのではないでしょうか。

人は日常生活で起きる様々な出来事をストレスとして感じて生きています。

例えば、パソコンの普及が一般化すればパソコン操作が苦手な人はストレスが高くなり、パソコンの前に座ることを拒否するかもしれません。

パソコンの必要性を感じず、ストレスにならなければよいのですが、労働の絶対条件にパソコン使用という命題があれば苦手な人はストレス度が高くなります。

大袈裟にいえば出社拒否をし、自己否定さえしてしまい、うつ病の発症にまで到ってしまいます。

 

傷つくことなく育った若い人の脆さ

先のご両親は50代後半で団塊世代と呼ばれた世代です。学園紛争、高度経済成長、バブル景気とその崩壊による経済破綻・不況を経験してきました。

娘さんの父親は、かつては企業戦士と呼ばれ、日本経済の発展を支えてきた一人です。

残業時間は月100時間が当たり前で今でいう過労死の基準値をとうに上回っており、睡眠時間は3~4時間という毎日を送っていました。

「仕事が命」で、銀座で接待、酒席でも客の情報をもれなく聞きとめ、トイレで手帳に客の情報の整理をメモし、何気ない顔をして接待をしていく日々でした。

団塊世代が活躍した時代は、現代では考えられないほどエネルギッシュな時代でした。

父親が仕事にエネルギーを注ぐ分、母親は子育てのみに力を注ぎました。そして過干渉・過保護になっていきました。

母親は理想の女性像を娘に投影し、娘は道徳的で傷つかないような人生を歩んできました。

娘さんは私立教育で小中高をエスカレーターで順調に育っていきました。大学進学は本人の希望で理系にすすみ、高校でエンジョイできなかった生活を取り戻すべく、アルバイトをしながら旅行や合コンを楽しむ予定でした。

ところがアルバイト先でささいな事件が起きてしまいました。客に渡すおつりを間違え、客から暴言を吐かれてしまったのです。それ以来、娘さんは立ち直ることが出来なくなってしまいました。

店長やバイトの同僚、友人も彼女をサポートし、なんとか立ち直ってほしいと力を注ぎましたが、やがて不登校がはじまり、精神科への通院に到ります。

「おつりを間違えるなんて緊張感がないんじゃない?」

と言われたことがきっかけだったようです。

他人から一度も叱責を受けた経験がなかったので、その一言でひどく人格を傷つけられたのです。

彼女は小さい頃から先生に頼られ、友人からも慕われていました。

バレー、ピアノを習い、発表会にも積極的に参加する明るい性格でした。成長過程では母親の影響力が強く、友人との諍いがあっても母親がクレーム処理をしてきたそうです。

娘さんの壁となって守ってきたのでした。それは、母親の生き甲斐でもあったのです。

ところが、子どものためにと考えてとった行動は、子どもの生きる力を奪いとっていたのかもしれません。

父親は、獅子が子を谷底へ落とす教育的な意味を知っていましたが、母親は娘さんが谷底へ落ちないようにしっかりと守ってきました。

そして社会に出て谷底に落ち、傷ついた時に、その娘さんを受け止め、いたわる役割が欠如していたのかもしれません。

現代型うつ病になる20代~30代の傾向としてはストレス耐性能力が低く、問題解決は他人の力に依存する傾向が強いように思います。

そして、転んで痛い目にあうことを避け、安全な道を歩むことを優先順位に考えてしまいます。

そうすると当然、挫折の経験はありません。

ストレス社会である現在、ストレス耐性能力を身につけるには、成長過程で、ある程度の挫折を乗り越える機会を親が与えなければいけないのかもしれません。

生活をしていく知恵は、親や社会が教えることができますが、自分を守る力、ストレスを乗り越える力は自分で身につけなければ現代を生き抜けません。いつまでも親が守ってくれるわけではないのですから。