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妻の笑顔が唯一の救い

2008/01/01
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みらい総合心理研究所 所長 岸井たみえ

 

昨年、最も心に残った事例

今月号は、昨年の一年を振り返って、最も心に残ったAさんの言葉を紹介します。

Aさん(57歳)は、IT関連事業会社に勤める一般職の男性社員です。

あと3年で訪れる定年の日を指折り数えて毎日を過ごしています。

高血圧・胃潰瘍・不整脈という持病を持ちながら、会社では与えられた職務も

なく、孤立した気持ちで淡々と勤務しています。

 

かつては不眠不休で会社を支えてきたAさん

実は、Aさんはご自身が勤めているこの会社の創業(立ち上げ)から関わってきました。

当時のAさんは、社長とも同志という間柄で、役員待遇として会社を支えていたのです。

新しく立ち上げたプロジェクトを次々とこなし、部下に対しては、配慮すべきところをきちんと優先しながら、不眠不休で働いてきたのでした。

しかし、その不眠不休がたたって47歳の時に、職場で突然倒れて入院。病名は虚血性心臓疾患でした。

 

療養後の職場復帰で転勤命令

1カ月の療養後、職場に復帰したAさんを待っていたのは転勤辞令でした。単身赴任を余儀なくされたのです。

サラリーマンであるかぎり転勤拒否はなかなかできません。辞令が出た以上、気持ちを切り替えて赴任するしかAさんに選択肢はありませんでした。

しかし役職は降格でしたから、なおさらAさんの心の闇は広くなりました。そして、会社に対する不信感も強くなっていきました。

Aさんは「武士の一分」という言葉がぴったりあてはまるような実直・誠実な人です。

責任感が強く、役員であった自分の立場が降格されても、「家族を守るのは自分しかいないのだから、降格は受け入れるしかない」と自分に言い聞かせたそうです。

Aさんは当時の心境をそう語ってくれました。

妻はそのようなAさんを心配して、「今の会社を辞めて新しい仕事についたらどうか。もっと体を大事にして欲しい」と訴えました。

しかし、Aさんは家族には迷惑をかけたくないという強い意志で妻の提案を受け入れませんでした。

 

降格で受付勤務に

その後、Aさんは一年ごとに降格されました。

今まででとても強く印象に残っている仕事は、受付勤務だったそうです。

会社の本館と新館につながる暗く冷たい廊下にデスクがひとつ。そこがAさんの新しい職場でした。本館と新館を通り抜ける業者、社員のチェックをすることが業務です。

かつての同志であった役員、昔の部下、同僚が誰一人、声もかけずにサインをして無言で通り抜けていきました。

このときAさんは脱落者の烙印を押されたと感じたそうです。

なぜこんな境遇になってしまったのか訳もわからずに、戸惑いながら数年を過ごしたといいます。

 

妻の支えでもちこたえる

仕事のない辛さは「無能な社員である」ということを仕事仲間に知らしめているようにも感じたそうです。

いつクビになるのかと、ビクビクしながら、たまに与えられた仕事でミスをしないように細心の注意を払います。そんな状況がずっと続きました。

子どもの結婚、孫の成長、母の看病と心のエネルギーを保ち続けるため、会社に出勤する毎日でした。

「ここまでもちこたえてこれたのは、家族の支えでした」

Aさんはしみじみと語ります。今では、あと3年で無事定年退職することが唯一の希望です。

「退職後は妻と二人で穏やかに暮したい」と穏やかな笑みを浮かべて語ってくれました。

全3回のカウンセリングでしたが、とても心に残る言葉でした。

◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

Aさんの耐えている姿勢は、まさにサラリーマンの鏡のように私には映るのです。

このように感じてしまう私はAさんに感情移入してしまいます。

社長、社員、同僚、そして会社の体質に対して怒りを持ってしまうのは、カウンセラーとして失格なのでしょうか。

このようなAさんの生き方にエールを送りたくなった私は「ときには怒りも人間ぽくていいじゃない」と自己肯定しています。

Aさんの妻は彼を支え続けています。そしてAさんは、

「妻に感謝しているんですよ。彼女の笑顔が唯一、僕の救いです」。

何の照れもなく、自然に語ってくれたAさんに人間の魅力を感じた私は幸せなカウンセラーです。