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パワーハラスメントの加害者にならないために

2007/12/01
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みらい総合心理研究所 所長 岸井たみえ

 

契約社員A子さんへのいやがらせ

「正社員の契約社員に対するイジメが多く困っています」と、あるメーカーの人事労務担当者と保健師から相談を受けました。

話の概要は次のようなものでした。

契約社員のA子さん(25歳)は正社員のB子さん(32歳)に会社の新製品の説明を求めました。そうするとB子さんは「そんなことも知らないの」「前に教えてあるはずよ」「今忙しいから」「自分で勉

強してきて」と露骨な嫌がらせをします。

自分なりに努力して作った書類を提出すると、不備があると決めつけ「何度言ったら分かるの!」あげくのはてに「契約社員って自分のことしか考えていないからお気楽よね」とまで言われてしまいました。

八方ふさがりになったA子さんは、途方に暮れ毎日憂鬱な気分で仕事をこなしていました。1年契約で入ったばかりの会社を辞めたら次の職にもつけないかもしれない。そうかといって毎日のいじめに耐えられるのかとても不安です。朝はなかなか起きられず、遅刻が増え、仕事上のミスも目立つようになりました。

 

 

そうなるとB子さんのいやがらせはますますヒートアップしていきます。ついには同僚にA子さんの無能ぶりを吹聴しはじめました。A子さんは昼食時もグループに入れず孤立してしまいました。

ある意味A子さんはB子さんのストレス発散の対象になってしまったのです。

このような状況を放置すると、様々な人を巻き込んで職場の人間関係がギクシャクしはじめ、生産性は低下し、職場が機能をしなくなってしまいます。最悪の場合、職場が契約社員対複数の正社員の戦場と化してしまいかねません。

 

B子さんの上昇志向

B子さんは正社員で、しかもマネージャー職ですから上司からの期待に応えるために必死です。自分の昇進・昇格にもつながりますのでスキルを上げるため休日も資格のための試験勉強をしています。

そこに自分とは立場の違う契約社員が部下として配置されました。

B子さんからみると、A子さんは、あたえられた仕事をこなすことだけに終止する、向上意欲のない人間にみえました。

 

図 マズローの欲求段階説

 

 

 

また、いちいちA子さんから質問されると、自分の仕事が奪われてしまうのではないかと感じるようになりました。

A子さんがとても邪魔な存在に思えてしまい、パワーハラスメントが生じてしまいました。

 

人間の欲求とハラスメント

なぜ人はハラスメントをするのでしょうか?

心理学者のマズローは、人間は低次元

の欲求から高次元の欲求へと欲求を段階的に満たして最後は自己実現へと成長していくという欲求段階説を唱えました。人間の欲求の根底にはまず第一に生理的欲求と安全欲求があり、それを土台とした上に高次元の欲求として「所属と愛の欲求」そして「自尊欲求(他人から尊敬

されたり責任ある地位を求める)」、そして究極的には「自己実現欲求」へと成長していくという考え方です(上図)

B子さんは自分の欲求(自分の立場を

守り上司に認められたいという欲求)が

阻害されていると感じたためにA子さん

を排除しようとしました。

B子さんのパワーハラスメントの裏側

には、自分の欲求を満たし、成長したいという動機があると思われます。

 

マズローの欲求段階説を職場環境に当てはめてみる

マズローの説を職場環境にあてはめると次のようになります。

まず第一に、必要な睡眠時間や職場環境を整え「生理的欲求」と「安全欲求」を満たします。

次に、信頼できる職場の人間関係・コミュニケーションを築き、「所属と愛の欲求」に対応します。さらに部下からの問題提起をしっかり受け止め、本人を正しく評価することは「自尊欲求」につながります。

このような欲求が満たされないと職員は不満を感じます。

今回のケースは組織内に新たな人が配属されたことで、受け入れる側の職員の欲求が混乱し、仕事を奪われるのでは、という不安感からハラスメントに至ったと思われます。

この場合、管理職は最初に職員の安全欲求を満たすことを心がけてほしいと思います。すなわち仕事の役割分担を明確にすることです。

B子さんの過重労働に対して管理職はA子さんを配属させたのですが、逆に、B子さんは自分が十分に仕事をこなせないと評価されたための配属と誤解してしまいました。

管理職は、配属の理由をB子さんに説明し、仕事の役割分担を明確にすることです。そうすればB子さんは安心して働くことができます。

また、B子さんは管理職に対して「能力のないA子さんを早くやめさせてほしい。教えている時間が長く仕事の効率が上がらない」と問題提起しています。

このようなときに管理職は「所属と愛の欲求」を満たすことです。

管理職はB子さんの欲求が何によって阻害されているのかを聴きます。A子さんがいなくなったらどうなると思うか。その時の仕事量はどうか。A子さんと仕事をすることで、どのような気持ちになるのか。将来どのような仕事をしたいと思っているのか、等です。

管理職が傾聴することで、B子さんの気持ちは整理されていきます。やがてB子さんは自分がとっていたA子さんへのパワーハラスメントに気づきます。

管理職がいきなりB子さんを呼び出し「君のA子さんに対する行動はパワハラだ。相手が休職したり病気になって訴えられたら君の責任だぞ。何様だと思っているんだ!」などと非難したら、この管理職もパワハラです。パワハラの連鎖は会社の風土になってしまいます。

参考までにパワーハラスメント加害者自己チェックを紹介します。思いあたることはありませんか。

<自己チェック>

①特定の部下に仕事を過度に与える

②特定の部下に仕事を与えないとか、閑職に就かせる

③特定の部下に、仕事で無理難題を押し付ける

④仕事のミスを注意する時に人間性(人格)を否定するような言動をする

⑤特定の部下だけを必要以上に責める

⑥人前で部下に恥をかかすような言動をする

⑦仕事の出来ばえが不満な時「バカヤロー!死んでしまえ」などと暴言を吐く

⑧特定の部下に情報を与えないなど無視する

⑨特定の部下には挨拶を返さない

⑩机をたたくなどの威嚇を含めて暴力をふるう

 

人間関係という土台

「かつて自分が上司からしてもらったように若い部下に接しても通用しない」という管理職の嘆きをよくききます。時代は急速に変化し、多くの管理職が部下への対応に苦慮しているようです。

しかし、いつの時代でも仕事をするのは人間です。人と人との人間関係が土台にあってこそ生産性は高まると思います。

機械化やIT化で余裕のなくなった今の職場で、B子さんは人の温かさを求めていたのかもしれません。