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夫からの突然の離婚通告

2007/10/01
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みらい総合心理研究所 所長 岸井たみえ

 

安倍首相の突然の辞意発表は日本中が大きく揺れ動きました。

人間が決断をする時には様々な想いを整理し実行していきます。

TVで報道された首相の記者会見に臨む様子から、私は、多くのクライエントが自分の気持ちを整理していくときの辛さと決断に到るまでの苦難を想い起こされました。

 

自宅を購入し円満な家庭が突然……

A子さんは34歳です。小学校3年生と小学校1年生の男の子がおり、現在妊娠8カ月。共稼ぎです。

夫は38歳。大手企業勤務、技術職、エリートで将来を期待されています。

A子さん夫婦は自宅を購入し家族も円満に生活していました。

A子さんは世話女房を自負し、夫の身の回りについてもこまごまと気づく、いまどきの女性としてめずらしいタイプです。一般論ですが多くの男性は好感を持つことまちがいなしでしょう。 

A子さんは夫と職場結婚できたことが夢のようでしたと当時を述懐します。

そしてハンカチを握り締めながら、10年の結婚生活が破綻に到る経緯を語り始めました。

3カ月前に夫から突然「田舎に帰ることにしたので離婚して欲しい」と言われ何がなんだか見当もつかず、「どうして、何があったの。私が悪いことした?」と質問を繰り返しました。

それに対して夫はつぎのように答えました。 

*○月○日、「こんなこともできないなんてどんな躾をされたの」と言い僕を傷つけた。

*○月○日、「子どもの面倒をみないと父親として尊敬されない」と言った。

*○月○日、クリスマスの日に残業して帰ってきた時に「お疲れ様」と言ってくれなかった。

 

A子さんは記憶がなく、「どうしてその時に言ってくれないのか」と訴えてみたものの「田舎の両親も年をとってきたので面倒をみたい。就職も決まっているから大丈夫だよ」と他人事のように言う始末です。

夫は、離婚をするという意志が強く、黙々と身辺整理をはじめます。子どもの養育費、家のローン等について話し合うときも感情的にならずに淡々とすすんでいきました。

しかしA子さんは夫に対して不信感があり顛末を書類に残しておきたいと思い、弁護士に相談しました。

弁護士は家裁に離婚調停の申し立てを申請したのでそのことを夫に報告すると

「どうしてそんなことをする必要があるの?」といぶかしげにA子さんの顔を見たそうです。

離婚後はTV電話で「子ども達と会話をするのが楽しみだ。今度生まれてくる子は女の子がいいね」とあっけらかんと言い放します。

 

情緒性が低く場が読めない夫

私は夫の対人適応の低さを感じ、日頃の生活について聞いてみました。すると夫は次のような状態であるとわかりました。

*仕事一筋のところがあり、帰宅するとすぐにパソコンにむかう

*会話が長続きしない

*感情的な言葉が少なく、映画やTVドラマには興味がない。

*A子さんが夫に育児の相談をしたりねぎらって欲しいと言うと、よく分からないから育児を知っている人に相談してほしいと言う。しかし子どもとはゲームなどをして遊ぶ。

*家族旅行も年2回くらいは行っていたが、計画やお膳立ては全てA子さんが行っていた。

*生活面は規則正しい習慣がついているとは思えないことが多く、家の中に男の子が3人いる感じがしていた。

*A子さんの実家に帰ったときに実母が「今度の子は女の子がいいね。また男の子だと男の子が4人いるみたいだもの」とちょっと皮肉っぽく言うと夫は「お母さん、間違えていますよ。僕は大人ですから男の子3人ですよ」と普通に返事をしていた。

このような状況を聞き、整理していくと夫の情緒性の未熟さが目立ちます。

情緒性が低いと、いわゆる「場が読めない。空気が読めない」人ということになります。団体行動が苦手で協調性が低く、深い人間的な交流ができません。変化に柔軟に対応することができず、画一的に規律や約束を守ることを優先します。

 

夫の心のルーツがみえてきたA子さん

私はカウンセリング時には、ある精神疾患名を考えながら話を進めていく場合があります。カウンセラーは疾患名をクライエントに告げることはしません。それは医師の役割だと思っています。しかし今回のケースは迷いました。

クライエントは妊娠8カ月であり、今後子ども3人を育て上げなければいけない、夫の意味不明な言動に振り回され続け何年も悩んでいくことになります。私は迷った挙句、夫が何故このような言動をするのか、という思考について説明しました。第一に考えなくてはいけないことは目の前にいるクライエントの援助だからです。

説明を聴いたA子さんの表情に変化が表れました。そして「夫の考えているルーツがなんとなく理解できた」と語ってくれました。子どもが急に駄々をこね、困惑している親がその理由をきいて「なんだ、それならそうだと言ってよ。もう、まったく!」という心境になったのかもしれません。

「私は夫のことを憎まなくてすみそうです。いままでは子どもとの面会も拒否しようと思っていました」

次の予約をとるA子さんの表情はとても落ち着いていました。

 

情緒性は少ないけれど約束を守ることが出来る夫

次のカウンセリングでの第一声は夫の会社の同僚の話でした。会社での夫の行動について聞いてみると「実は……」と言いづらそうに、「変わった人だと思っていた。歓送迎会は一切出席せず部下に対しても面倒をみるわけでもなく、ただ只自分の仕事をこなしている。頭が切れるけれど、どうも人間関係が築けない人だ」と言われたとのことです。

A子さんはここで夫の心のルーツについて確信を持ち、自分だけが気づかずにいたことで自分にも問題があるのではないかと思いはじめました。

調停日が来て、久しぶりに会う夫は少し緊張していました。夫は会うなり「父が今日亡くなったので実家に帰らなくてはいけない。それで引越しすることができなくなる。困った。どうしよう」と言ってくるので「私が整理して荷物を送ってあげる」と言うと、安心して調停に入ったそうです。

調停員からは「何の問題もないご夫婦に見えるのですが、なぜ離婚したいのかよく分からない」と言われました。

前回の調停の時に夫は「今度、調停が終わったら食事をしよう」と言っていました。しかし、義父が亡くなり夫は今日にも実家に戻らなくてはいけないのでA子さんも早く帰って夫の荷物整理をしようと思っていました。しかし夫は「食事に行こうよ。約束したんだから」と言い、とっとと先に歩き出しました。

前回のカウンセリング時に彼の考えや行動パターンを理解していたので「そうね。おいしい物を食べましょう」と常識では考えられないかもしれないけれど二人で肩を並べ食事をしてきたそうです。

A子さんは夫を一方向でしか見られなかったけれど、今は夫の変化を待つということより「情緒性は少ないけれど約束を守ることが出来る人だ」と考え、長く付き合っていけそうだと半分あきらめもあるのでしょうが、明るく言い放ちました。

 

人間が重大な決意をするときに、サポートする人間が何人いたのか?

サポートする人たちの人間性が、決意をする人に本当に届いていたのか?

私は安倍首相の決意を拝見しながら、サポートする側の人間として自分を振り返ざるを得ませんでした。

今、A子さんは間近な出産に向け、前向きに生きています。