重大な決心をする度に逃げる人(幸せをつかめない理由とは?) | BLOG | EAPとメンタルヘルスの事なら、みらい総合心理研究所へ

  • 11:00~18:00(最終受付 17:00)

  • 045-228-7171
  • 何でもお問い合わせ下さい

重大な決心をする度に逃げる人(幸せをつかめない理由とは?)

2007/05/01
ロゴ

みらい総合心理研究所 所長 岸井たみえ

 

ある兵士の恋

ある兵士が王女に恋をしました。恋で苦しんだ兵士は思い切って王女に告白をしたのです。王女は条件を出しました。

「私の部屋の下で毎晩私を想い、100日間佇んでいたのなら私はあなたの愛を信じます」

兵士は喜び、「自分の願いは100日過ぎれば叶い、王女との愛ある生活が始まる」

その日から兵士は、王女の部屋の窓の下で部屋の明かりが消え、王女が眠りにつくまで王女を想いそして帰路につくのです。

春が過ぎ、夏を越え、初秋の頃99日目がきました。

しかし、王女と出会い100日目の夜に兵士の姿はそこになかったのです。愛を確かめる想いが叶うのに……。

ここで質問です。なぜ兵士は大切な日に姿を現さなかったのでしょう。

99日間苦しさに耐え、王女に対して熱い想いを持ちながら願いが叶う1日をすごせなかったのか、大きな疑問が残ります。

兵士の気持ちにどのような変化があったのでしょうか。

 

今回のケースは「兵士の恋」にとても似ています。

前号同様に<キーワード:K>にもとづいて説明します。
 ①性格傾向
 ②特徴的思考
 ③ストレスの要因
 ④問題解決のための療法
 ⑤周囲の方の理解(職場・家族等)
 ⑥予防法

 

<S子さんの事例>

S子さんは32才。性格はとても明るく美人で仕事もテキパキとこなし好感のもてる女性です。同僚が風邪で休むと気遣うメールを送ったりします。

ある日、社内でも有能でエリート、女性のファンも多く憧れの的であったAさんから「付き合ってほしい」と告白されました。

S子さんは思いがけないAさんの気持ちを聞き、驚きと嬉しさから、ためらいながらも彼の気持ちを受け入れました。

誠実な彼の気持ちに触れ、次第にS子さんは心を惹かれていきました。

AさんはS子さんのサポートもあり、以前にも増して仕事に積極的に取り組むことができ、S子さんの存在が大切になってきました。

食事、映画、旅行などをしながら二人の価値観を確かめ、お互いに尊重できる生活のビジョンも具体的になり、未来の設計図もできあがってきました。(K③)

Aさんが告白した日から1年後にS子さんは彼からの正式にプロポーズを受け入れました。(K③)

お互いの両親に会い、結婚式、新婚旅行の日程も決まり、新居には真新しい家具も搬入されました。

 

ウェディングドレスを決める当日から異変が

そのような状況が続き、忙しく動いていたS子さんがウェディングドレスを決めなければいけない日の朝、突然の頭痛で起き上がれなくなりました。

急遽日程を変更したものの、体調はその日を境に悪化していくのです。

会社も休みがちになりAさんとのデートの待ち合わせ時間も遅れがちになりました。おしゃれに着飾っていたS子さんの洋服にも変化があらわれ、シワのよっているブラウスとスカートでお化粧もせず、目の輝きも失せてきました。

 

別れのメール

AさんはハツラツとしていたS子さんの変貌に戸惑い、原因も分からず途方に暮れてしまいました。「結婚式の日まで1カ月を切った日にS子さんからAさんにメールが届きました。

「あなたとの結婚に自信がなくなりました。ごめんなさい」

 

Aさんの落ちこみは、読者の方が想像する以上でした。強い信頼の糸を断ち切られ絶望の海へと放り出されてしまいました(Aさんの心の状態は次号で紹介します)。

 

幼少期の「お豆腐間違え事件」    

退職したS子さんがカウンセリングに来たのはそれから2カ月後のことです。

心療内科医の紹介です。うつ病という診断でした。

S子さんは3人姉妹の長女で両親は教育者。母は校長という職責で小さい頃から母は家に居ることが少ないため長女として妹達の世話をすることが多かったようです(K①)。

小学校3年生のある日、お豆腐を買ってくるように頼まれ近くのスーパーに行き、帰り道、母にほめてもらっている自分を想像していました。しかし想像していた状況に反したことが起こりました。  

母にお豆腐を差し出すと「絹豆腐じゃなくて、木綿豆腐でしょ。取り替えてきて」ときつく言われたのです。「間違えたので取り替えて欲しい」となかなか言えず恥ずかしさで顔がほてりました。

それを語るS子さんは「後悔」と「悔しさ」が身にしみた過去の思い出を昨日のことのように涙を浮かべながらハンカチをぎゅっと握りしめていました。

間違えてしまうと、こんなに傷ついてしまう、もう二度と失敗をしないように注意をすること。そうしなければ人は私を出来の悪い人間だと思ってしまう。戒めのようにS子さんは「私は、失敗を怖れています。いつも失敗をしないようにおどおどしているんです」と視線を落としました。

 

未来を否定する考え方

S子さんのエピソードを聴いていた私は彼女の特徴的思考の原点をみたように感じました。

S子さんはAさんとの結婚生活を考えた時に小学3年の「お豆腐間違え事件」の感情が沸き上がってきました。Aさんと実母が無意識の中で一致してしまい、いつか「Aさんから拒否されバカにされるかもしれない。私は軽薄な女だから。失敗をしてしまった私をきっとAさんは放りだしてしまうだろう」(K②)。

このように考えていたのです。Aさんに「結婚を断るメール」を送ったときの心境はこのような不安な気持ちが増幅されたからでした。

S子さんのカウンセリングは8カ月で終了しました。

彼女の無意識の感情を表出するのにそれ程の時間はかかりませんでした。

「以前から対人に対して緊張する自分に違和感を持っていて、人と話をする時には、早くこの場を離れたい。何か自分が変なことを言ってしまうのではないかと不安でたまらなかった」と自覚していたからです。

自分の「感情と行動」に焦点を当てていると、今、この瞬間に沸いてくる自分のやっかいな「感情と行動」の原因を探しやすくなります。それだけ「うつ」の症状は早く軽減していきます。(K④)

現在S子さんは新しい職場をみつけ、月1回のカウンセリングを受けながら、解放された自由な気持ちで働いています。

 

さて、兵士がなぜ大切な日に逃げ出したのか。答えはみつかったでしょうか。

兵士はこう考えたのです。

100日目に王女は「やっぱりあなたと共に生きることはできない」と断わってくるに違いない。そうなったら99日間頑張った自分がみじめになる。こんなにみじめな気持ちになるのなら、明日この場にいなければいい。

 

この兵士とS子さんは共通する思考があります。

将来、起きるであろう事柄に対して、否定的な考えをしてしまうのです。

「どうせ頑張ったって王女は私のことを嫌うはず」

「彼が私のことを幸せにすると言っても本当に幸せになるはずがない」

 

不安が強い思考をすると自分だけを防衛してしまい、幸せな人生を得ることが難しくなります。(つづく)

 

「失敗は人を愛する能力を育てるための経験である。

ただ、それだけの出来事」