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カウンセリングの現場からみたメンタルヘルス

2007/04/01
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みらい総合心理研究所 所長 岸井たみえ

 

私はカウンセリングに携わって26年になります。

「カウンセラーになろうとした動機はなんですか」という質問を度々受けることがあります。

「自分自身のために、自分のコンプレックスを克服したかったから」

「えっ!!コンプレックスって?」

「うん。口が大きすぎて」

私のコンプレックスは、たくさんある様々な悩みの中でも非常に高いストレス要因になっていたのです。

このコンプレックスは根が深く、自分を認めることができるまでに多くの時間を費やしました。

それまでは、親のせいにもしたり、果ては整形手術まで考えたりしていました。

今でこそ、ごってりと口紅を塗って人前に出ていますが……。

 

私はカウンセリングで初めて出会うクライエント(相談者)に一番に伝える言葉があります。

「あなたに決めてもらいたいことがあります。あなたの心の問題を聴くのは私でいいですか?」

この言葉の続きは

「カウンセリングの最終目的は『自立』です。そのための第一歩の決断のためですよ」

もちろん「NO」と言われたこともあります。複雑な心境ではありますが、これもクライエントの意志であり、私は謙虚に受け止めています。

今回の連載では、誰にでも起こる可能性のある身近な心の問題をカウンセリング事例として取り上げます。なお、登場する方達は、現在「自立」をし、またはそのプロセスをたどっている方々です。

まず、心の問題を整理していくプロセスを解説していきます。そのためのキーワードは次の6項目です。

 

<キーワード>

①性格傾向

②特徴的思考

③ストレスの要因

④問題解決のための療法

⑤周囲の方の理解(職場・家族等)

⑥予防法

 

A氏の事例

 

42歳 男性 

大手不動産会社営業部長(勤続20年)

 

心療内科医からカウンセリングを勧められ来所。

 

症状:頭がすっきりしない。意欲がなくなった。

    面倒くさくなり物覚えも悪い。

人と会いたくない。

 

責任感の強いAさん

Aさんは一見体格のよい体育会系の人です。

大学卒業後、持ち前の明るさと面倒見の良さでリーダーシップを発揮し、営業成績はいつもトップクラス。業績不振な支店に転勤を命ざれることもしばしば。

単身赴任もこなしてきました。

順調な出世をし、今年、本社営業本部長に栄転し、7カ月が経過した矢先のことでした。

Aさんの①性格傾向は、自己犠牲的な責任感の強さが前面に出ていました。

持ち前のスポーツ精神で根性論を自認し、部下に対しては日頃から声をかけ、居酒屋コミュニケーションでチーム力を強調。エネルギッシュに語っていました。

その分、部下の信頼も厚いと確信していたのです。

Aさんは本社に赴任し、部長職として部下30名を統率。

過去の経験から赴任1日目の酒席で持論を語り、一致団結、みんなの力を結集するために、自分が責任をとることを強調しました。

こうして6カ月のプロジェクトを成し遂げ、Aさんは満足のいく成果を出すことができました。

 

部下の一言がストレス要因に

ところが、その打ち上げの酒席で、ある課長からつぶやかれた次の言葉が③ストレス要因となってしまいました。

ただし、Aさんはこの時点ではそのことに気づいていませんでした。

「部長の頑張り精神は部下に浸透していると思っていたのですが……。実は、新入社員から相談があったのです。いつも宴会で頑張れ、皆の力が大事だと強要されっぱなしで見苦しいと……。宴会をいつもやって部下を統制するのは時代遅れだと言われたんですよ」

Aさんは、その時には「そうか、新入社員なんてそんなもんだよ」と課長に返していました。

しかし、その1カ月後に先の症状が表れたのです。

 

自分の特徴的思考に気づく

カウンセリング1カ月後にAさんはご自身の②特徴的思考に気づかれました。すなわち「上司は部下のために尽くすこと、部下の力になることが職責でその結果が自分の評価につながる」という思考を持っていることに気づきました。

Aさんは自分の短所は「自己主張が強く、意志が強すぎる」と認識しており、その結果「自分を抑えながら人に接する方が対人関係はうまくいくはずだ」と考え、意識的に部下の立場を優先して考えていたようです。

 

問題解決のための療法

「認知行動療法」(a)で私はAさんの特徴的な思考に気づきました。

そこで改めてAさんが部下にとった言動の原因(②特徴的思考)を話の中心にしていきました。

やがてAさんは、部下の一言に傷つき、自信を喪失し部下とのコミュニケーションが通用しなくなった挫折感で一杯になっていた気持ちを自分の言葉で語り始めたのです。

「部下の信頼を築く基盤がくずれてしまい、何を積み上げていけばよいのか途方に暮れてしまいました」

私との会話にも視線は合わず、宙をさまよい、深いため息でカウンセリングルームはうまっていきました。

 

周囲の方の理解

Aさんのような状態に陥った場合、ご家族の援助がキーワードになってきます。

次回のカウンセリングは奥様と同伴でのカウンセリングを予約をしていただきました。

家庭内でのAさんは会社での態度とまるで逆でした。

家庭では無口で、用のある時だけの会話しかなく、奥様は「主人は何を考えているのかまったく分からない」という言葉を私に投げかけてきました。

「私は夫に何をしてあげればいいのでしょうか?」と不安な表情です。

Aさんの了承を得て、奥様に今回の経緯をお話すると、奥様はとても驚き、涙があふれ、夫の手をそっと握り締めました。

その光景は今でも忘れることができません。

夫に無理解であった自分に気づき、妻として何とか夫の役に立ちたいというお気持ちを感じました。

Aさんは「男は仕事のグチを家庭に持ち込むべきではない」という考え方でした。グチを言うなんて弱々しくて頼りない。そんな自分にはなりたくないと思っていました。

家庭でも夫の役割を作り、演じていたようです。

夫婦同伴でのカウンセリングの後、奥様はAさんのグチを聴くことを心掛けるようになりました。共に過ごす時間もなるべく多くとり、休日には二人で出かけることが多くなりました。そしてAさんは家事を手伝うようにまでなったのです。

 

会社でのAさんは部下に対しての気配りの仕方に変化が表れました。部下に対してヒアリングを実施しました。

仕事や上司に対してのスタンス、要望、問題意識などをじっくりと時間をかけ、話し合いました。

その結果、Aさんと部下の信頼感が強化され無駄なエネルギーを放出することもなくなりました。Aさんは職責に対して合理的に対処しています。今までの居酒屋コミュニケーションは減りましたが、言葉掛けを心掛けることで、状況把握ができ、気持ちもとても安定しています。

 

Aさんは本来の自分を取り戻すことができましたが、そのことに大きく関与したのは妻の力でした。人間は他者から支えられていると実感すると自信が湧いてくるようです。       (つづく)